満員電車で死んだ顔をしてた私が、競艇場で人生を取り戻した話。
毎日毎日、満員電車に揺られ、無表情でExcelとにらめっこする日々。
朝は吐きそうになりながら満員電車に乗り込み、会社のデスクにつけば、一日中パソコン画面から目を離せない。
上司の理不尽な指示に、ただ「承知いたしました」と返すだけの毎日。 夢も、希望も、何も見出せない。

「私、このまま…この会社で、あの人みたいになるのかな」 ランチをしながら、隣に座った上司の顔を見てふとそう思いました。
上司の口から出てくるのは、会社や他の部署の愚痴ばかり。 仕事が終われば、SNSで誰かのキラキラした生活を眺めて、ため息をつく。 そうやって、毎日が同じことの繰り返しで過ぎていく恐怖。 私の未来も、もしかしたらこうなるのかもしれない。
もし、今の生活がずっと続くとしたら。 もし、この退屈な毎日に、一生囚われてしまうとしたら。
そう考えると、心底ゾッとしました。
それでもいいかな、って思っている自分がいました。当時は元カレと結婚して、平凡で安定した生活を送ることが、何よりの幸せだと思っていましたから。
そんな淡い夢は、元カレが突然いなくなったことで、あっけなく終わりました。
「お前は俺がいなくても生きていけるだろ」
その一言は、私にとってどれほどの屈辱だったか。
そして、同時に、自分の人生が完全に誰かに依存していたことを突きつけられました。
未来が白紙に戻った瞬間に襲いかかってきたのは、一人で生きていかなければならないという絶望的な恐怖。
OLとして働く以外に、何も武器を持っていない私。
このままでは、満員電車とExcelに挟まれた人生から、一生抜け出せない。 そう、心底ゾッとしました。

私は、もう誰かに頼る人生は嫌でした。自分の力だけで、生きていけるようになりたかった。
しかし、現実は甘くありませんでした。
元カレと別れ、一人で生きていかなければならない絶望と恐怖の中、私はただ茫然と、テレビを眺める日々を送っていました。
そんなある日、テレビから、耳に残るCMが流れ始めました。競馬のCM。競輪のCM。そして、水しぶきを上げるボートのCM。 どのCMも、「一攫千金」「人生逆転」という、キラキラとした希望を歌っていました。

私はその言葉に、すがるようにして、公営ギャンブルに手を出しました。
競馬、競輪。そして、元カレと行った思い出のある競艇にも。 最初は自分で予想して、夢中になっていました。
でも、気づけば、手元に残ったのは、膨らみ続ける借金だけ。
「何やってるんだろう、私」 自分の情けなさに、涙が止まりませんでした。
自立しなきゃと思っていたのに、気づいたら、むしろ誰かに頼らなければ生きていけない状況に陥っていたのです。
満員電車に乗る日々は変わらないのに、心の中は、さらに暗く、絶望に満ちていました。
そんなある日、再び競艇のCMが流れ始めました。 力強く疾走するボート。
その姿を見て、私はふと、気づいたのです。 「このまま自己流でやっても、同じことの繰り返しだ」と。
私は、満員電車とExcelに挟まれた人生から抜け出すために、そして、父が誇りに思ってくれた、海のそばで生きていくために、本気で学ぶことを決意しました。
「もう、誰にも頼らず、自分の力だけで、この状況を抜け出したい。」
そう強く願い、私は、プロの知識とロジックを学べる場所を探し始めました。
そこで教わったのは、ただの当てずっぽうな予想ではありませんでした。
選手の過去の成績、モーターの調整状況、風や潮の流れ… 膨大なデータと、そこから導き出されるロジックを、一つずつ学び、自分でも分析できるようになっていきました。
そして、あるレースで、私は、初めて自分で分析した通りに舟券を買い、見事に的中させることができました。
配当金が、1ヶ月の給料を超える金額だった、あの日のように、手が震えました。
でも、今度は涙は出ませんでした。
悔しさでも、絶望でもなく、自分の力で人生を切り開くことができる、という確かな手応えを感じたからです。
私はOLを辞めました。 満員電車に揺られ、無表情でExcelとにらめっこする日々とは、もうお別れです。
今、私は、競艇場で、PCを前に、真剣な眼差しでデータを分析しています。
それは、かつて父が漁船の上で、海と向き合っていたように。水しぶきを上げ、轟音を轟かせながら疾走するボート。 その音は、私にとって、父との思い出を呼び覚ます、力強い応援歌のようです。
父が海で生きてたのに、私はずっと海から逃げていた。
でも、競艇は、私に勇気をくれました。 父から受け継いだ、海への想い。 そして、自分らしく、自由に生きるための、もう一つの生き方を見つけることができたのです。